AC版『ヴァンガードII』広大な宇宙を自由に駆ける!SNKが挑戦した全方位シューティングの先駆け

アーケード版『ヴァンガードII』は、1984年3月にSNKから発売されたビデオゲームです。ジャンルはシューティングゲームに分類されますが、前作『ヴァンガード』とは大きく異なるゲームシステムを持っています。開発もSNKが手掛けており、当時のアーケードゲーム市場において、ユニークなプレイ体験を提供しました。プレイヤーは自機を操作し、浮遊するエイリアンのプラットフォーム上でエネルギー供給源であるパワーポッドを破壊し、最終的に中心部のコアを破壊することが目的となります。全方位にスクロールするステージと、対空・対地の撃ち分けが大きな特徴でした。

開発背景や技術的な挑戦

1980年代初頭、アーケードゲーム市場はシューティングゲームの全盛期を迎えていました。1981年に発売された前作『ヴァンガード』は、強制横スクロールを基本としながらも、一部で縦方向にもスクロールし、多彩な攻撃方法を持つ自機が特徴で人気を博しました。しかし、その続編である『ヴァンガードII』は、前作のゲーム性を直接的に引き継ぐのではなく、全く新しい方向性を目指して開発されました。本作では、当時としては先進的であった全方位スクロールを採用しています。これは、プレイヤーがより自由に広大なステージを探索できることを意味し、戦略の幅を広げる試みでした。技術的には、多数の敵キャラクターや地上物を同時に表示しながら、スムーズな全方位スクロールを実現するには、当時のハードウェア性能の限界に迫る挑戦があったと推測されます。また、背景に視差効果(パララックススクロール)を用いるなど、視覚的な奥行きを表現するための工夫も見られ、開発チームの技術的な意欲がうかがえます。

プレイ体験

『ヴァンガードII』のプレイ体験は、他のシューティングゲームとは一線を画すものでした。プレイヤーは8方向に移動可能な自機を操りますが、その操作方法は独特でした。行きたい方向にレバーを倒すだけでなく、機体の向きを回転させてから前進するという、実際の戦闘機に近い挙動が再現されており、慣れるまでには少し時間が必要でした。攻撃は、空中の敵を攻撃するための対空ショットと、地上のターゲットを狙うための対地ミサイルに分かれています。対地ミサイルを発射する際には、『ゼビウス』のように照準(クロスヘア)が表示され、これを地上のパワーポッドに合わせて破壊していきます。ステージクリアの条件は、一定数のパワーポッドを破壊した後に、ステージ中央に存在するコアを破壊することです。敵の攻撃は激しく、特にコア周辺では弾幕が厚くなるため、プレイヤーには緻密な操作と的確な判断力が要求されました。常に移動し続ける自機を制御しながら、空と地上の両方に注意を払う必要があり、非常に緊張感のあるゲームプレイが展開されました。

初期の評価と現在の再評価

発売当初の『ヴァンガードII』は、大きな成功を収めた前作と比較されることが多く、その全く異なるゲーム性から、プレイヤーの間では戸惑いの声も聞かれました。前作の持つ直線的でスピーディーな爽快感を期待していたプレイヤーにとって、本作の自由度が高い反面、やや複雑な操作や戦略性が求められるシステムは、必ずしも好意的に受け入れられたわけではなかったようです。商業的にも前作ほどのヒットには至らなかったとされています。しかし、後年になって、本作は再評価の動きが見られるようになります。特にレトロゲームのファンからは、その独創的なゲームシステムや、時代を先取りしたかのような全方位スクロールの採用が注目されました。単純な撃ち合いに留まらない戦略性の深さや、独特の浮遊感を持つ操作感覚が、かえって新鮮であると評価されています。現在では、SNKがシューティングゲームのジャンルにおいて、常に新しい挑戦を続けていたことを示す意欲作として、その歴史的価値が認められています。

他ジャンル・文化への影響

『ヴァンガードII』が直接的に他の特定の作品に大きな影響を与えたという記録は多くありません。しかし、本作が採用したゲームメカニクスには、その後のシューティングゲームの進化の系譜の中で見過ごせない要素が含まれています。特に、全方位スクロールのフィールドを自由に移動しながら、対空と対地の目標を個別に攻撃するというシステムは、ナムコの『ボスコニアン』や、後にテクノソフトから登場する『サンダーフォース』シリーズの初期作品とも共通するコンセプトを持っています。これらの作品群が、80年代のシューティングゲームに「広大なマップを探索し、目標を破壊する」という新しいプレイスタイルを確立していく中で、『ヴァンガードII』もまた、その流れを形成した一作として位置づけることができます。爆発的なヒットには至らなかったものの、シューティングゲームの表現の可能性を模索したSNKの試みは、間接的にジャンルの多様化に貢献したと言えるかもしれません。

リメイクでの進化

『ヴァンガードII』は、1984年のアーケードでの稼働以来、長らく家庭用ゲーム機への移植が行われませんでした。そのため、一部の熱心なレトロゲームファンを除いては、プレイする機会が非常に限られた「幻の作品」とも言える時期が続きました。しかし、発売から27年の時を経て、2011年に日本国内で発売されたプレイステーション・ポータブル(PSP)用ソフト『SNKアーケードクラシックス ゼロ』に収録される形で、初の完全移植が実現しました。この移植版は、アーケード版のゲーム内容を忠実に再現しており、プレイヤーは当時のゲームバランスやグラフィック、サウンドをそのまま体験することができます。特別なアレンジや追加要素はありませんが、携帯ゲーム機でいつでもどこでも手軽に遊べるようになったことで、本作の独創的な魅力を再発見する機会を提供しました。この収録は、SNKの豊かなアーケードゲームの歴史を後世に伝える上で、非常に大きな意義を持つものでした。

特別な存在である理由

アーケード版『ヴァンガードII』が特別な存在である理由は、人気を博した前作の成功に安住することなく、全く異なるゲームデザインに果敢に挑戦したその姿勢にあります。強制スクロールが主流であった当時のシューティングゲームの中で、広大なフィールドを自由に探索できる全方位スクロールと、対空・対地を戦略的に撃ち分けるゲーム性は、先進的な試みでした。そのユニークな操作性や高い戦略性は、万人受けするものではなかったかもしれませんが、プレイヤーに新しい形のシューティングゲームの楽しみ方を提示しました。商業的な成功だけがゲームの価値ではないことを、本作は静かに物語っています。SNKというメーカーが、常に革新的なゲームプレイを模索し続けていたことを示す歴史の証人として、また、80年代のアーケードゲームが持つ多様性と熱気に満ちた時代の空気感を今に伝える貴重な一作として、特別な輝きを放ち続けているのです。

まとめ

1984年に登場した『ヴァンガードII』は、前作とは全く異なるアプローチで開発された、挑戦的な全方位シューティングゲームでした。独特の操作感と、広大なステージを探索しながらターゲットを破壊していく戦略性の高いゲームプレイは、当時のアーケードシーンにおいて異彩を放っていました。爆発的な人気を得るには至りませんでしたが、その独創的な試みは、後のゲームに影響を与えた可能性を秘めています。長年、プレイ環境が限られていましたが、コンピレーションソフトへの収録によって、その先進性を再評価する道が開かれました。『ヴァンガードII』は、SNKのゲーム開発における革新への情熱と、80年代アーケードゲームの奥深さを象徴する一作として、今なお語り継がれるべき作品と言えるでしょう。

©1984 SNK CORPORATION